穏やかな声が、まだ車のエンジン音をかすかに残す耳に心地よく響きました。今日の目的地、びく石山キャンプ場へ向かう道すがら、入口のゆるびく村で、ふと視界に飛び込んできたのは、まるで絵本から抜け出したような愛らしい建物でした。

ゆるびく村は静岡県藤枝市瀬戸ノ谷にある、のんびりとした雰囲気の小さなお店が集まった場所です。木工家具職人であり、森林インストラクターとしても活動されている村長の下茂俊幸さんが、1997年に荒れ地を開拓してできた村だそうで、カフェやチャイなどのお店をやりたい若い方を募ってできたスポットです。村内の個性的なお店の建設や改修も手掛けているようです。
ゆるびく村は自然豊かな場所にあり、鎌倉や茅ヶ崎などの観光地にも似たゆったりとした時間を過ごせるのが魅力です。キャンプ場からは歩いて訪れることができるのも我々にとっての魅力です。
再び車のエンジンをかけ、緩やかな坂道を上っていきます。今日の宿営地は、藤枝市の東海ガスが運営する「びく石山 静かな夜のキャンプ場」。2024年3月に開設されたばかりの、グランピングとキャンプサイトが併設された新しい施設です。


今回は、贅沢にも1000平米という広大なC6特別サイト(ポップスター)を貸し切ることができました。テントやタープのサイズを気にせず、思う存分スペースを使えるのは、まさに至福の喜びです。
びく石キャンプ場の象徴とも言えるコンテナが、この特別サイトにも鎮座しています。早速、階段を上ってみますと、他のサイトの様子が一望できました。手前には、生物多様性に配慮したビオトープが広がっています。コンテナの上部は、小さなテントを設営するのにちょうど良い広さです。今夜の星空観察のために、S’moreのバニラコージーを設営しておきましょう。



穏やかな好天に恵まれた昼下がり。この時、まさか数時間後にあんな試練が待ち受けているとは、想像もしていませんでした。メインとなるテントは、同じくS’moreのTetto。設営が容易な、お気に入りのワンポールテントです。手際よく設営を終え、広々としたサイトに配置していきます。

しかし、午後の空は急変しました。予報にはなかった(あったのかも)大雨が降り出したのです。已む無く、場内を散策することにしました。ゴールデンウィークということもあり、雨天にもかかわらず他のキャンパーたちの姿も見受けられます。こんな状況下では、東屋の存在は本当にありがたいです。


滴る雨水が新緑に反射し、まるで宝石のようにキラキラと輝いています。悪天候でも、自然の美しさを満喫できるのは、キャンプの魅力の一つでしょう。雨音をBGMに、ランタンの優しい灯りを眺めていると、いつもより早く夜の帳が降りてきたようです。
焚き火の準備を始めます。雨の影響で、幾分肌寒く感じます。焚き火の温かさが、じんわりと身に染み渡ります。そして、今日の焚き火には特別な目的があります。



所望のアルミ製バケツが見当たらなかったため、百円ショップで購入したワイヤー植木鉢にアルミ箔を巻いて代用することにしました。丸鶏には、まずレモンを丁寧に塗り込みます。タンパク質を分解し、肉質を柔らかくするための一工夫です。続いて、全体に塩、胡椒、そしてお好みのスパイスを、満遍なく揉み込みます。
三分の一ほどビールを味わい、残りを缶に残したまま、丸鶏のお尻に差し込みます。足にはアルミ箔製の覆いを被せます。直接火が当たる部分の焦げ付きを防ぐためです。缶が転倒しないように石などでしっかりと固定し、アルミ箔製の筒を被せれば準備完了。ビールの蒸気を利用して蒸し焼きにするという調理法です。
ビールの蒸気を利用して蒸し焼きにする
蒸し鶏が焼き上がるまでの約一時間、今宵の肴には岩牡蠣を選びました。 新発売されたコストコの牡蠣は、身が大きく豊満です。焚き火の一隅を借りて、じっくり焼き上げていきます。


日中の雨がまるで嘘のように、夜空は晴れ渡りました。月は勿論、無数の星々が瞬き、 夜空を宝石のように飾っています。辺りが静寂に包まれる頃、蒸し鶏も焼き上がりの瞬間を迎えました。黄金色に輝く皮が、食欲をそそります。ナイフを入れると、 はらはらと肉がほぐれていきます。一口食べれば、肉汁が口いっぱいに広がります。レモンの効果で身は柔らかく、柔らかいというより舌の上でほどけていく感じです。焚き火を囲み、 蒸し鶏を堪能します。そして修行の末、ようやく薄切りにできるようになったタン塩も用意しました。薄ければ薄いほど美味しいタン塩は、まさに至福の味です。